コラム勝木氏 コラム

勝木氏 コラム

第二十三話 「容器検定」前編

日本酒醸造界のレジェンド、勝木慶一郎氏による連載コラム第二十三話の前編です。
今回は、タンクなどの容器について詳しく解説して頂いています。

醪タンクと酒母用 高野槙の壺代

8月に入ると猛暑の中、福岡・佐賀両県では、3会場4クラスに分かれ酒造杜氏組合の夏期酒造講習会が開かれた。
その年各杜氏達から寄せられた問題点や質問事項を杜氏組合として集約し、その要望に添って講習が開催される。
講習会では都度質問にも答える。各クラス80名を超える出席者があり、時間に制約もあり質問について十分な
答えになっていない場合が多い。また今年の講習会は、例年と一番異なる点は、従来講師は講習内容を事前に
組合へ提出し、組合が纏めて紙に印刷し会場受付で、出席者に各自配布していたが、今年は出席者それぞれに
メールで講習資料を事前にPDFにして配布し、必要分をプリントして会場に出席するように試みてみた。
この方式は、長所欠点があるが少しずつ改善していくことになっている。長所の一つは、先の質問などその場で
十分詳しい解説ができにくい内容について、質問の内容により質問者また参加者全員へ後日資料の配付が簡単に
できる点がある。さて、その質問内容と後日配布した資料から話をすすめたい。

Q.1 私の蔵では、7月に3㎘のタンク4本を新規導入しました。容器検定の方法が分かりません。
   検定の準備から、手順と税務署への提出について詳しく教えてください。
Q.2 タンクが蔵に入る前に税務署へ相談しましたが、備品として「流量計」の貸し出しは行っているが、
   実際の検定作業は各蔵で行ってくださいと言われました。

A.1 水検と呼ぶ、タンクの容器検定については、「酒税法」で定められています。酒税法を読み合わせて
   酒税法及び酒類行政関係法令通達集(法令出版編)を参考にしてください。

【酒税法】
1)容器検定を行う上で、あらかじめ知っておきたいこと。
私達は酒造会社で清酒を造っています。清酒を醸造するには「清酒製造免許」が必要な事は皆さん知って
いると思います。酒造免許の基になる「酒税法」について少し詳しく知る必要があります。国の定める
ルールには、上から階層があります。
国民により定められた「憲法」があり、憲法の定めにより、衆議院と参議院を構成する国会議員が選挙に
より選出されます。国会の衆参両院で議員による決議によりさまざまな法律が定まります。
さらに円滑に実際の法を運用するために各行政機関がそれぞれに定めた法規範として「政令」や「省令」
があります。
酒税法(昭和二十八年法律第六号)もその一つです。酒税法は、第一章 総則 第一条 課税物件から、
第九章 罰則 第五九条までで構成されています。今回必要となる「容器検定」については、
法第四七条(申告義務)に定めてあります。実際の法の運用については、さらに【法令解釈通達】第四七条 
申告義務 第一項関係3<容器容量の測定方法>により示されています。通達は法令の解釈や適用の一般指針
を示すもので実務を円滑におこなうために、通達に沿った措置をとります。このように法により新たに
酒類製造に供する容器は容量を測定し、製造設備として容器台帳に記載し、税務署に申告する義務があります。
2)容器容量の測定については、九州酒造研究会では、2003年以来毎年夏の間に久留米市の生物食品研究所に
設置されている実際の「容器」を使用し測定方法の実技講習および座学による容器測定実測表から容器台帳作成
と製造設備申告書作成までの実習を行っています。そこで使用する実技と実習で使うテキストを現場の事情に
寄り添い、出来る限りわかりやすく解説しました。

-容器検定(水検)の手順書-
1.【容器の形状と種類】
初めに、今回新たに容器検定を行う容器は、既に使用されている大型容器である10㎘密閉容器より大きいタンク
では無く酒母タンクから5㎘程度までの小型タンクの容量を自分たちの蔵で実際に測定する際に必要とされる
テキストを実技講習の経験を踏まえて作成した。想定される容器の形状は次に示す「密閉タンク」「開放タンク」
「酒母タンク」の3種類とします。酒税法で規定する正式呼称とは若干異なり、実際の水検作業は、全て「水検」
払い出し法によります。


 密閉(式整円筒)タンク     (整円筒)開放タンク       酒母タンク


2.【測定するに適したタンクを据える場所】
測定する容器は、水平に設置する。今回の容器容量の測定には「水道水」をタンクに予め(満量)予定水位まで
張り測定手順に従って順次払い出していく方法で行う。そのためにはタンクを水平に据える場所であると同時に
排水がスムーズに行えるコンクリート床面で水勾配が取れた明るい、天井の高さに余裕がある室内が望ましい。
次に可能であれば出来るだけ、測定するタンクは測定時には通常よりも30cm程度高く設置する事が測定をスムーズ
に行える。ただし、「一定量」の水を払い出し、そのつど「深さ」を測るためにタンクの測定位置が、通常より高い
位置にあり仮設した梯子や足場の安全対策、特に転落防止には十分な注意が必要となる。

3.【測定に必要な道具】
① デジタル天秤(秤量:30kg ~65kg)
② ポリ桶(容量:20ℓ 60ℓ) 
③ ガスねじタイプの呑口
④ ガスねじを使い接続するボールバルブまたは、フルボアタイプのバタフライバルブが便利
⑤ 尺 尺の目盛りは2mm刻みとします。(竹製、木製)とホルダー(尺置き)も必要。
⑥ A案:200kg(ポンド)台秤2台と400ℓ容量の半切り桶
⑦ B案:予め正確に測定した600ℓ~がはかり取れる「酒母タンク」等を「ます」として利用。


  
     ①デジタル天秤           ②名醸社ガスねじ吞

  
    ③ポンド秤2台使用例          ④検尺使用例


4.【容器を測定する場合の用語をタンクを測定する場所や位置関係で説明する】



① 底板面 ていばんめん  容器の底板の面をいう。ただし、底板が水平面になっていないもの   
              については、底板の頂点の20~30mm真上の点を含む水平面をいう。
              (ただし、容器の用途、目的に応じ底板面の位置は任意とすることができ
              るが底板面以下の容量は、定量できない)
② 口頭面 こうとうめん   容器の口頭(マンホール口)を含む水平面。検尺口を有している容器に
              ついては底板面に最も近い検尺口頭の箇所を含む水平面をいう。
③ 口径面 こうけいめん   口頭面から、30mm下がった、水平面をいう。一般的に、空寸(0)=満量をさす。
              (ただし、口径面についても容器の形状、使用目的に応じ任意に口径面の、
              位置=空寸を設定することができる。ただし、その場合には、当該容器本体、
              および容器台帳にその旨記載表示する必要がある。もちろん専用の、尺も別途用意
              しなければならない)
④ 肩面 かためん     密閉容器において、胴板から径が縮小を始める、いわゆる「肩」を形成する所の
              接合箇所を含む水平面をいう。
⑤ 中間面 ちゅうかんめん 底板面から口頭面(密閉式整円筒タンクについては肩面)との中間の水平面をいう。
⑥ 胴面 どうめん     整円筒タンクにおいては、底板面と口径面とを垂直方向に区切る中間面をいう。
              密閉式・整円筒タンクにおいては、底板面と肩面の間を垂直方向に区切る中間面をいう。
⑦ 底径 ていけい     底板面の直径をいう。
⑧ 口径 こうけい     口径面の直径をいう。
⑨ 肩径 かたけい     肩面の直径をいう。
⑩ 中間径 ちゅうかんけい 中間面の直径をいう。
⑪ 胴径 どうけい     胴面の直径をいう。
⑫ 整円筒タンク      鉄製(琺瑯タンク・グラス、ライニング・樹脂ライニング・ステンレス等)の整円筒型の
              タンクで、口径・中間径・及び底径のそれぞれの直径の差が、30mm以内、(ただし、
              容量 1000リットル以下の容器については、20mm以内)の容器で内部に攪拌機等
              が存在しないものをいう。
⑬ 整円すいタンク     木製及び鉄製の容器で、(整円筒タンクをのぞく)かつ、隣接する各
              胴径相互の差、(例えば底径と第一胴径との差、)がそれぞれ50mm以内
              のものをいう。ただし、内部に攪拌機等が存在しないものに限る。
⑭ 密閉式整円筒タンク   鉄製の容器で、かつ、肩径、2中間径及び底径のそれぞれの差が
              30mm(容量1キロリットル以下の容器については、20mm以内のものをいう。
              ただし、全容量が9キロリットル以下で中に攪拌機等が存在しないものに限る。
⑮ 測定区分        容量の測定に当たり、基準とする深さ又は容量の区分等をいう。
⑯ 測定点         深さの測定に当たり、測定の容易な一定の点(検尺口)ただし、整円筒タンク、
               整円すいタンク及び密閉式整円筒タンクについては、口頭面の中心点をいう。
⑰ 口頭面の中心点     整円筒タンク、整円すいタンク及び密閉式整円筒タンクについては、容器の
              「呑口」(2つある時は、下部の呑口。以下同じ)を前として口頭面に定規を
               十文字に渡した時に交差する箇所を、整方型容器については、容器の「呑口」
               を前にして口頭面に定規を十文字に渡したときに交差する箇所をいう。





⑱ 全深      測定点を基準とした口径面から底板面までの深さをいう。
          容器の口頭面の中心を測定点とした場合を除く。(検尺口を使用)
⑲ 中心深     測定点を基準とした口径面から底板面までの深さをいう。
          容器の口頭面の中心点を測定に限る。(マンホールを使い検尺する)
⑳ 全容量      ❶口径面から肩面までの容量
           ❷肩面(整円筒タンク及び整円すいタンクについては、口径面から底板面までの容量)
           ❸底板面以下の容量 これら、❶ ❷ ❸の合計を全容量とする。





5.【容器容量の測定の具体的手順】
1.この手順書でいう測定作業は、「清酒及びしょうちゅう」の製造に用いる容器を「水測」の方法に基づき
容器容量測定を合理的に実施する際の手順書とする。測定の基本は容器の「深さ」と「容量」を同時に正確に
計量することである。(基本は測定する容器容量は5㎘以下の小型容器を想定するが、大型容器にも応用可能です)
2.測定作業では、容量として「リットル」の位まで算出し、未満の端数は切り捨てる。
3.容器の深さの単位は、最小目盛りを2ミリメートルの単位とする。

1)測定方法  容器から予め満量とした水を「払い出す方法」による。
2)重量換算  水道水を用い、水1リットルを1キログラムとして換算し計測する。
3)水測の方法 容器の種類に応じて容器の「深さ」及び「容量」を同時にそれぞれ測定する。
4)深さ    ⑫整円筒タンク ⑬整円すいタンク ⑭密閉式整円筒タンクについては、
        容器の呑口を手前として、⑰口頭面の中心点から底板面に対し、垂直に測定する。
5)全容量   全容量は、次の区分毎に測定した容量を合計する。

【step-1】口径面から肩面までの容量
口径面から肩面の容量については、容器の大きさに応じて、次表に掲げる容量を基準として、測定する場合には、
その測定区分における払い出し容量に応じた深さを併せて測定する。




対象容器の大きさにより、払い出す水の量が決まる。
 いずれのサイズの容器についても、デジタル秤を用いて容量をリットルに換算し計量する。
 Point① 重量払い出しで測定する時には、必ず上吞口にボールバルブを取り付けその下に
      デジタル秤に20リットルポリ容器を「風袋キャンセル」操作を済ませた後に払い出し、
      予定の数量までバルブを調整し、慎重に秤とる。写真①②
 Point② 測定区分に従い水を払い出した後、タンク内の液面の安定を確認して「尺」で深さを
      計測する。右手(利き手)に尺を持ち左手指先で接液面の濡れた位置を爪で押さえる
      と目盛りを確認しやすい。
 Point③ 計測に使用する尺は、その都度水に浸かるために回数を重ねる都度に目盛りの読み
      取りが難しくなる。事前に必ず、乾いたタオル、ティッシュで水を拭き取り、ヘアド
      ライヤーを使用し、必ずぬれた「接液部分」を乾いた状態で次回使用する。写真④

【step-2】 肩面から底板面までの容量 (整円筒タンク及び整円すいタンクについては口径面)
肩面から底板面までの容量については、容器の大きさに応じて、次表に掲げる容量を基準として、
測定する場合には、その測定区分における払い出し容量に応じた深さを併せて測定する。




対象容器の大きさにより、払い出す水の量が決まる。
 測定容器の胴面の払い出し容量は、100リットルから600リットルである。容器容量100リ
ットルの場合には、肩面で用いた一回当たり20リットルの払い出し方法も採用できる。
重量払い出しで、むずかしい問題点は正確な重量を特別な装置を用いずに計るには、計量器(秤量)の
はかりとる最大重量に制約があることです。
デジタル秤が普及したので、正確に払い出し容量300リットル、600リットルの場合には、次の方法により
計測を行う。
Point① 容量600リットルを正確に秤とるには、デジタル秤に60ℓ容量の容器を乗せ、風袋引きをして、50ℓX
6回計量した方が、正確で早い。ただし回数の確認を忘れずに。
Point② 同様にして、300ℓ、600ℓを酒母タンク等に秤入れ、空寸を測定すれば、測定した小型容器を
「計量枡」として使用可能になる。
Point③ もちろん、歯車型流量計や電磁流量計の使用もできるが、この程度の容量を重量に換算する方法が
設備や準備の点から見て使い勝手が良く応用範囲が広い。
Point④ つぎに、デジタル秤が現在のように普及する前に広く酒蔵で使用されていた、「竿式台はかり」
(制限重量250Kg)2台を用いる昔の賢い方法を紹介します。

勝木 慶一郎氏 紹介

・醸造家酒造歴:50年、佐賀 五町田酒造45年、京都 松本酒造5年
・特技:酒造工程の改善、SDKアルコール分析法の考案
・趣味:写真機、世界中のBeerを一種類でも多く飲む、真空管ラジオで短波放送を聴く

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